デイサービスの介護食

デイサービスの介護食

野菜の盛り合わせの写真

デイサービスの利用者にとってお昼の食事は楽しみの一つでしょうか。介護食であっても、食事が心を尽くしたおいしいものであれば、要支援・要介護の高齢者の方々にプラスアルファの生きる活力と充足感をもたらします。そんなおいしい食で好評を得ている西宮市のデイサービス『プリューム』の総料理長に「介護食で大切なこと」を伺いました。

食欲を高めるのは「五感への刺激」と「季節感」

介護食というと、やわらかく塩分や糖分を控えたものをイメージするでしょうか。ですが、作り手としては、利用者が食べ残すようなおいしくないものより、おいしいものを少しでも食べて喜んでもらえる食事を日々考えています。

人間の欲望の中で一番は、やはり食欲です。体のための栄養摂取という大事な一面がもちろんありますが、何より食べることは人間にとって一番の楽しみ、元気の素になるからです。

介護食でまず大事にしているのは「五感」に訴えること。目で見て美しいと感じる盛り付け、香ばしいよい匂い、ジュっと焼ける音、そして口の中に入れれば歯触りや食感がいい、・・そんな五感を刺激することが、あまり食が進まなくなった方にとっても食欲が増すスイッチになるでしょう。歯がわるい人にはキザミ食にしたり、小さく一口に切ったり、ごはんをおかゆにしたり、食べやすい配慮もしています。

また、「季節感」を感じてもらうことも重要です。デイサービスの利用者は70代~90代がほとんどですが、その世代は母親や奥さんあるいはご自身が、秋には松茸やサンマ、春だと鯛やサワラというように、季節の食材をきちんと調理したものを食べてきました。そうした旬の野菜や魚類はその季節に一番おいしく栄養価が高くなるもの。ですから、春夏秋冬の旬の食材をその時期に合わせて使うよう心がけています。

調理も多彩に、温かいものは温かく、食器も素敵に

調理法も和える・蒸す・煮る・炒める・揚げるなど多彩に変化をつけています。私が参考にしたのは「普茶料理」で、黄檗山にいる僧侶がお豆腐でまるで豚の角煮のような味と食感を生み出した、という普茶料理の工夫の数々を勉強して取り入れています。

介護食は作り置きされたものと思う方もいるでしょうが、調理は絶対に当日、しかも湯気が立つ状態で召し上がってもらいます。温かいものは温かく、冷たいものは冷たくというふうに。目の前でトンカツや串カツを揚げることもあり、ジュージューと音をたてるような作りたて出来たてのシズル感と共に味わっていただいています。

食器もすべて陶器。お料理屋さんやご自宅と変わりません。われにくい素材をなぜ使わないのかという声もあります。でも、やっぱり素敵な陶器で出すと、よりおいしく感じてもらえる。病院食みたいに出てきたら、どんなにおいしく作ってもうれしくはないでしょう。

基本的に毎日違うものをお出ししてメニューは豊富です。1回分はメインとごはんと味噌汁と副菜、それにお漬物とフルーツは必ずつけます。カレーやオムライス、ちらし寿司、炊き込みごはんなどの日もありますが、材料に変化をつけて同じものは出さないようにしています。

ごはんの量は調節しますが量は多い目。ですが、残す方はいらっしゃらない。1ヶ月のメニュー表をお渡ししているので、みなさんそれを見て、今日はこれが食べられるんだなと楽しみにいらっしゃるようです。

毎月ある特別料理と、クリスマスやお正月のごちそう

月2回、特別料理を出す日を設けています。日々の昼食も普通のランチより豪華という声も聞きますが、いつもとはまた違う「牛カツのミルフィーユ仕立て」のようなメニューを召し上がっていただく。ハンバーガーを出したこともありますが、みなさんに大好評でした。

また、毎月1日は「お楽しみ食」にして、お重に詰めて出しています。そうすると、今日は1日なんだ、月が変わったんだなとわかる、そういう役割もあるわけです。

祝日や季節の行事でも特別なごちそうを出しています。たとえば、クリスマスはクリスマスランチを作り、オードブルの前菜から始まってサラダ、スープ、メインの牛ステーキやエビ料理、デザートまで本当に豪華です。利用者はクリスマスに関心がないかもしれません。でも、今日はクリスマスですよと、一緒に盛り上げていきます。

年始はお正月の特別料理。八寸に数の子や黒豆や、おせちをいろいろ出して、お雑煮も作ります。誤嚥があるといけないので白玉を入れたり、お餅を出すときはものすごく小さくして入れ、初日は白味噌、翌日はすまし、と関西の伝統的なお雑煮を2日間出しています。そして、メインはすきやきやトマトベースの鍋など、固形燃料で加熱する一人用の鍋で召し上がっていただきます。

利用者が飽きない工夫でもありますが、旬の食材を含めて、月日の流れや季節の変化を食事で実感していただくことを大事にしています。

おいしい食事が人を元気にし笑顔にする

私は、みなさんが食べている時に必ず見に行って声をおかけするんです。今日のお肉やお魚はどこ産でとか、今日のお漬け物はこんな方もお食べになったとか、うんちくや情報を添えると、特別感やおいしさが増して、料理の上にもう一つ味を載せることになるからです。

カロリー計算はしますが、基準に合わせすぎると味が物足りない。朝食などご自宅でカロリーは調整ができます。朝起きて、今日はデイサービスがある、あそこに行けばまたおいしいものが食べられる、と期待がふくらむような、一般の人が食べても十分においしい料理をお出ししたいと思います。

食の反応は素直に出るものです。まずければ残しますし、おいしいと食べて、笑顔にもなります。ふだんは全然食べられない方やほとんど残すような方が、思わず「おいしいわあ」と言って夢中で食べ、完食してくださるのはうれしいこと。週5回、毎日来てここで昼ごはんを食べるのが日常の楽しみという方もいらっしゃいます。

食事で心身は元気になります。医食同源。食は健康につながりますし、健康であれば笑顔も出てきて楽しくなります。単純に生きる喜びにも通じる。私は利用者の方が行きたいと思う施設づくりを、おいしい食を通して表現していきたい。介護食もまた、食べる人の立場に立つことが一番大切だと思っています。

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