除夜のすごし方~新年へ

除夜のすごし方~新年へ

釣鐘の写真

あわただしく過ぎる12月。暮れも押し詰まると、あちこちで今年の「納め」と新年の準備を整える風景が見られます。「おさめ餅つき祭」を行うお寺もあります。そうして迎える大晦日。百八つの鐘を聞きながら、日本じゅうの人々がゆく年くる年に思いをはせることでしょう。除夜こそ日本人にとって年に一度の聖なる夜なのかもしれません。

終わりを良くして一年を区切る師走

師走の「師」というのは本来、お坊さんのことをさします。お坊さんが走るぐらい忙しいという例えです。今は特定の人ではなく、年末の人々の精神性や掃除や用事のあれこれに追われるあわただしさを表しています。そういう中で一年を終えていく。

しょっちゅうという言葉がありますが、「初中後(しょちゅうご)」が略されたもので、初めよくし中よくして終わりも良くするという意味から、初めから終わりまでずっとという意味に転じたと言われます。
お経にもそれに似た「初中後善(しょちゅうこうぜん)」という言葉があって、年の瀬にはそうした仏教的要素が感じられます。つまり、新年の始まりもよくしながら、年の終わりもよく締めくくるという。

一年というのは、終わりがあり、おのずと始まりが来て再びスタートを切ることができます。一年の区切りを大事にしたことで、昨日まではああだったけれど、明日から心を新たにして出直そうという気持ちになれる。それが人の心情というものなのでしょう。

除夜会は「旧を送り、新を迎う」 宝刻

区切りとなる大晦日の夜に、各地の寺では「除夜会」の法要が元旦の未明にかけて行われます。除夜会では「旧を送り、新を迎う」。つまり、過ぎ去りし一年を思い仏に向かって感謝あるいは懺悔をし、来るべき年の幸福を願って新しい出発を誓いそれを実感していただくものです。

お経を唱えて聞かせる寺は少ないかもしれませんが、聖天寺では聞いていただきます。旧年から新年にかけてお経に耳を傾け、仏の前で心を吐露し反省し祈る、そういう自身と向き合う時間をとってほしい。

一年の締めくくりに本尊の前で過ごす時間は「宝刻」と言え、滅多にない宝のようなひとときになるはずだからです。

除夜の鐘で煩悩を消し去り新年に希望を持つ

除夜とは夜を除くと書きますが、古いものを除き、新しい年へ出発する夜を意味しています。日が変われば夜は新しい朝に向かって行きます。いろいろあった古いものはすべて洗い流しましょうということです。

除夜の鐘を打つのは、打ち付けることによって一つ一つ煩悩を壊滅させる、消し去るということでしょう。鐘の音に、この一年をすごした人それぞれの心の奥底にある悔いや怒りや執着への反省と懺悔がこめられています。

百八つ打つのは煩悩の数と言われますが、百八つは限定した整数ではなく、煩悩は無限ということを意味している。すなわち、煩悩から逃れられないのが人間、それを自覚しなさいということでもあります。

ただし、新年になると、また煩悩が芽生えてふくらみ1年のうちに積み重なります。でも、また除夜で懺悔して消し去ることができる、つまり1年ごとに繰り返し罪は許される、そこが仏教の良いところであり、仏様の寛容さでしょう。
仏の前で正直に自身と向き合い心をこめて手を合わせれば新年に希望を持つことができます。

お正月は五色幕で仏様の五智にあやかる

お正月自体は神道的なもの。年末に大掃除をするのも神様が最も嫌うのが不浄だからで、清浄な空間を作ってしめ縄を飾り歳神様をお迎えする。
クリスマスの次に除夜がありお正月があるという日本人の宗教観は外国人には理解できないかもしれませんが、仏教も心の不浄を除夜の鐘で取り払って新年を迎えるわけですから、根底の普遍的意義で共通し、祈る私たちの心は一つなのだと思います。

寺はお正月に特別なことはしませんが、初詣に訪れる人々とともに、一年の始まりに僧侶もさまざまに思いをめぐらせます。そして、世の中の平和と、みなさんの安寧と健康を祈ります。

真言宗の寺ではお正月に五色の幕をかけます。新年のお祝いと仏様に感謝をこめる意味で五色の幕をかかげて仏様を賛嘆するものです。この五色は青黄赤の三原色に白と紫(黒の場合も)。 五つの色は「五智」、すなわち、地、水、火、風、空(ちすいかふうくう)を表しています。五輪塔の五でもある。
それらを色に置き換えれば「地」が紫(黒)、「水」が白、「火」は赤、「風」は黄、「空」が青になります。これは要するに、この世の万物を構成する要素を象徴しているんです。

五智を説明するのは難しいですが、仏様が持っているのが五智。そして、私たちの心の中にもある。ただし、我々が仏となんら変わらない仏性を持っていても気づかないように、仏の五つの智慧、五智を我々は自身の心に持っていることに気づきません。気づくことは悟りに通じます。

ともあれ、五色の幕はお正月や落慶など慶びごとの折にかかげられます。五智にあやかろうということです。

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